バレンタインの花丸さん 花丸さんのおせっかい編

「他の人にチョコをあげるのは、初めてで・・・」
「あ、そうなんだ、毎年ルビィちゃんとチョコの交換をしてて・・・」
口の中で、ぶつぶつと、昨晩からずっと考えているセリフをつぶやき続ける。
ちょっと声が震えてるのが自分でもわかった。
はーっ。
思わず、大きく、息を吐く。
真っ白い息が手にかかったけど・・・そういえば、手袋したままだった。
無駄に水滴がついた手袋を眺めながら、体は習慣的に、手を擦り合わせていた。
ああ、と思う間もなく。
水滴は手袋に染み込んで、すぐに見えなくなってしまった。

「早く、来すぎちゃったかなあ?」
つぶやく声が、オラしかいない学校のすきまに消えていく。

まあ、来すぎたんだろうなあ。
そう思って、体をひときわ大きく震えさせた。
正直なところ、少し寒くなってきている。
だけど、待ち合わせた時間はそろそろだから、出直すわけにもいかない・・・し、それくらいなら、我慢するのは訳のないことだ。

なんとなく、気合を入れたくなって。
頰を少し強めに、両手ではたいた。
手袋越しだったから、ぱふぱふと、気の抜けた音が響く。
手袋は、さっきかけた息のせいでしっとりと湿っていて、ものすごく冷たくなっていて。
その冷たさとおかしさで、涙が出て来たけど。

でも、オラが勝手に、やろう、って決めたこと。
それに比べたら、こんなの、大したことないなって、やっぱり少しおかしな気合の入れ方をしていた。

足音。
と・・・オラを呼ぶ声。
慌てて振り向くと、もう、時間になっちゃったのか。
その人は、すでに到着していた。
ひとりで頰を叩いたりしてたのを、見られてたのかな?
そう思うと、妙に気恥ずかしくなった。

思わず俯いて、自分の格好を確認してしまう・・・横目で、建物のガラスに映る自分の姿も、ついでに確かめておく。
うん、服は、言われた通りに着れている、たぶん。
可愛いとか似合うとか、いろいろ言ってもらいながら見繕ってもらったけど・・・いまいち、自分ではよくわからないんだよな。
まあ、いまからやろうとしていることを考えたら、オラの格好は別にどうでもいいはず、なんだけど。

思い直して、その人に、顔を向ける。
考えてみると、2人きりで顔を合わせるのって、なかったような気がするし・・・さすがに呼び出した日が日だから、要件は察してる、よね?

その人の表情は、いかにもなんでもない風な顔をしていた。
本当に気付いていないようにも見える。
でも、もし違ったら恥ずかしいから、「それで、何の用?」みたいな、すました顔をしてる・・・ようにも見えた。

気付いてるかな。
気付いてないかな?
その人は。
オラから話し出すのを待つと決めたようで、最初に名前を呼んだきり、沈黙を続けている。

オラは、さっき入れたはずの気合は何処へやら。
練習よりも少し(いや、だいぶかな・・・)情けない感じで、決めていたセリフを言う。

「あ、あの、あのあの・・・今日は、バレンタイン、おめでとうございます!」

ルビィちゃんの作った、本当は、大好きな人に渡したかった、ハート形のチョコ。

「ハートの形はルビィちゃんが作ったので、お星様の方は、オラが作ったんだ」

オラのは、ルビィちゃんにもあげた、友達のためのチョコだから。
これは実際には、ルビィちゃんのチョコを渡しているのと同じこと。
ダメ押しで、ルビィちゃんの気持ちを、伝える。
伝わらないだろうけどな♡

「・・・いつかオラたち二人で、お嫁さんに行くかもしれないずら♡」

案の定、その人は、面食らったように目を瞬かせて・・・呆れたように息をついて、笑った。

これからも3人、良いお友達でいましょう。
なーんて、思ったみたい。

そう。
これは、ただのお節介で、ただの冗談。

ルビィちゃんにあんなに思われてる果報者には、これくらいの応援で、十分ずら?


そんな内浦。

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